2005年、児童養護施設児童指導員として在職中、繁華街やネット、SNSをさまよう子ども・若者と出会いました。かれらの多くは、児童相談所や施設が提供する支援を拒み、勧誘行為や犯罪に巻き込まれ、犯罪の加害者・被害者になっていきました。
繫華街やネット、SNSを観察すると、違法スカウトや勧誘行為が活発に行われていましたが、教育・福祉関係者からのアプローチは皆無でした。わたしは子ども・若者が犯罪被害に遭う前に先回りするアプローチを考案し、繁華街やSNSでの交流を通して、声かけを行う活動を始めます。いち早く困窮者のSOSに気づき、適切な支援を提供できればという思いがありました。
ところが出会った子ども・若者の多くは、福祉や支援にネガティブな印象を持っていました。「風俗の方がマシ」という若年女性や、「屈辱的」「自由がなくなる」という声もよく聞きました。かれらの話を聞くうちに、良かれと思っている支援が、もしかすると人間としての尊厳を奪っているのではないかと考えるようになりました。
わたしは、支援を拒む子ども・若者や路上生活者を無理やりどこかに連れていくのではなく、まずは互いの理解を深めるため、出会った場所で交流を続けることにしました。言語・非言語のコミュニケーションを保障する活動です。この取り組みは、周囲からアウトリーチ活動と呼ばれています。
はじめは一人で声かけを行っていましたが、次第に「手伝うよ」「活動したい」と参加・協力をしてくれる方々が増えていきました。とくに多かったのは、10代や20代で、病気や障害、被虐待経験等を抱える子ども・若者です。
わたしは、「子どもだから」「要支援者だから」と追い返すのではなく、一緒に考え、活動できる環境をつくりたいと考え、かれらと共に2012年に全国こども福祉センターを設立(2013年に法人格を取得)しました。
当時は教育・福祉関係者からは見向きもされず、著名人からは非難や妨害行為を経験することもありましたが、参加者の強い支持や協力のおかげで、声かけと交流活動を継続することができました。
活動を始めて、約15年が経過します。それまで危険な場所という印象が強かった繫華街が、子ども・若者や路上生活者等の交流拠点へと変わりました。支援ではなく、交流を目的に集うため、年齢や性別、障害の有無は関係ありません。
毎年、約2千人のボランティア希望者や参加者を受け入れ、街角ボランティアセンターとして社会的な役割を担っています。必要に応じて、一時避難の場の提供や緊急支援も行っています。
センターの運営では、参加者と寄付者による共同体自治を重視しています。この場にいない「誰か」や、補助金・助成金に依存せず、自分たちで運営することを大切にしていきたいと考えています。
さいごに、本活動を法人化して、公共空間で行う理由があります。それは、全国こども福祉センターを公共財(共有の財産)として捉えているからです。少しでも社会に還元できればと考え、公開の場で活動を続けてきました。
わたしたちは、これから出会う人々を要支援者としてではなく、参加者または活動者としてお迎えしたいと考えています。
ようこそ、全国こども福祉センターへ
全国こども福祉センター 理事長
愛知文教女子短期大学 准教授
保育士・社会福祉士 荒井 和樹
北海道苫前郡出身。日本福祉大学大学院社会福祉学研究科 修了(社会福祉学修士)。
公的支援を拒む子ども・若者と向き合った現場経験から、相手を「要支援者」ではなく「仲間」として迎える〈非援助的アプローチ〉を探究し、参加者自らが運営と意思決定を担う〈共同体自治〉の実践を広げている。2012年に全国こども福祉センターを設立し、名古屋駅前の広場を拠点にアウトリーチを継続。これまでに2万6千人以上へ交流と参加の機会をひらく。2016年より大学教育に携わり、ソーシャルワーカー・保育者の養成に注力。著書に『子ども・若者が創るアウトリーチ』(2019)、『能力社会から共同体自治へ』(2025, せせらぎ出版)。「第1回 未来をつくる こどもまんなかアワード」内閣総理大臣表彰(2023)受賞。
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